昭和のアイロンといえば“ズシッと重い”
昭和の家で使われていたアイロンは、とにかく重かった。
あのズシリとした手応え、今の軽量スチームアイロンとはまるで別物だ。
子どものころ、母親のアイロンがけを手伝おうとして、
思っていたより重くて驚いた、なんて記憶がある人も多いだろう。
では、なぜあれほど重かったのか?
実はそこには、素材・熱・時代背景の三つの事情が絡んでいた。

当時は熱を“ためる”ために重さが必要だった
現代のアイロンは電気ヒーターが細かく温度調整してくれるが、
昭和のアイロンはそこまで精密ではなかった。
そのため、金属の本体そのものにしっかり熱をため込む必要があった。
特に使われていたのが、
鋳鉄(ちゅうてつ)
厚い鉄板
といった、熱容量の大きい重い素材だ。
重さがあるほど、
温度が一定に保てる
アイロン面が冷めにくい
一度温まれば長く使える
という実用上のメリットがあった。
つまり、昭和の“重いアイロン”は、
精密な温度制御がない時代を支えた 安定した熱源そのもの だったのだ。
重いほうが、しわが伸びる
もうひとつは、単純に 重さがアイロンの圧力=しわ伸ばし力 になること。
スチーム技術が今ほど強力でなかった昭和では、
しわを伸ばすのは圧力+熱 が基本。
軽いアイロンだと「押す力」も必要になるが、
重いアイロンは置くだけでも自然に力がかかる。
滑らせれば自重でしっかり布を押さえつけてくれるので、
どの家庭でも一定レベルで“ピシッと仕上がる”という利点があった。
母親たちが「この重さがいいのよ」と言っていたのは、
決して気のせいではなかったわけだ。
スチームが弱かった時代の事情
現代アイロンは蒸気でしわを浮かせて伸ばす。
しかし昭和のアイロンはスチーム量が少なく、
むしろ乾燥した強い熱でしわをプレスする仕組み。
そこで重さが活躍する。
布をしっかり押さえ込んで、熱と圧力で仕上げる必要があった。
つまり、
スチームの性能不足 → 重さで補う
という昭和アイロンの“力任せの合理性”があったわけだ。
時代が変わって軽くなったワケ
平成以降、
●温度制御の進化
●スチーム量の増加
●アルミやセラミックなど軽量素材の普及
により、重さに頼らなくても同じ仕上がりが可能になった。
結果として、アイロンはコンパクトで軽量に。
昔のアイロンを持つと「こんなに違うのか」と驚くほどだ。
とはいえ、昭和の重いアイロンで仕上げたシャツの
“ピシッとした直線”は、どこか職人技のにおいがした。
今日のミニ雑学まとめ
●昭和のアイロンは 熱をためるために重く作られていた
●圧力=しわ伸ばし効果があり、重さは実はメリットだった
●スチームや温度制御が未発達で、重さが性能を支えていた
●軽量化は技術進化の象徴で、昭和の重さには“機能美”があった

